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1日目。
新たに記そう。
再び挑む、この‘島’での日々の記録を。
退避期間中は‘森’で過ごしていた。
それなりの施設が在り、喧噪にいらん気を遣う必要も無く
こちらとしては都合の良い滞在場所だったからだ。
招待状は真鍮の鎖亭にて女将から受け取った。
どういう理屈で届いているのかは相変わらず、わからん。
前回同様の妙な文面は、二度目ともなると懐かしさやら何やらで
微笑ましくすら思えてしまう。己の口元が僅かに緩むのを自覚した。
たいした期間ではなかったが……待っていたのだ、この紙切れを。
隣で同様に招待状を受け取った相方がどこか、ほっとしたような顔をしていた。
なにか心配でもしていたのだろうか?
荷を纏め、‘森’を抜けるとエルタ付近の森だった。
直で‘島’まで行けるほど都合は良くなかったらしい。俺達は港へと急いだ。
港は、同様の冒険者達で賑わっていた。招待状の基準は相変わらず、不明だ。
老若男女、ヒト、ヒューマノイド、それ以外の形を持つ者。
見かけたことのある顔、見知らぬ顔。———希望と野心に満ちた、眼差し。
それらをかきわけ、‘島’行きの船を探し、乗り込む。
大きな帆に風を受けて船は力強く進む。
久方ぶりの海。
海面の揺らぎ、潮の流れ、風の動き、海鳥の羽音。
それらが、俺の中の何かをゆっくりと研いでいく感覚。
まだ、はっきりとはわからないが、何かが掴めそうな。
そんな気が、した。
フォウトが隣でそんな俺を不思議そうに見ていたが、当人にわからないものを
他者に説明出来るワケもなく。曖昧な笑みで、誤摩化す。
……前回は、独りだった。‘島’であいつらに声をかけられる迄は。
今回は、二人だった。隣で微笑む、白銀色の髪の……短剣遣い。
片側だけ長く纏められた、色素の薄い髪の房を潮風が戦(そよ)ぐ。
———縁というものは、不思議なものだ。
‘島’の港に着いて軽く休憩した後、冒険局への登録を済ませた。
……それまでに相方にやたらと心配されたが、俺はそんなにも信用が無いのだろうか。
表には出さなかったつもりだが若干、落ち込んだ。
地下への、探索。
そこは以前と比べて一変していた。あまりにも、一変しすぎていた。
白い雲、青い空。地下には有り得ない景色。
冗談のような話だ。慌てて階段を昇り、空を確かめてみる。空は、確かにそこに在る。
この時の俺はまるで狐につままれたような顔をしていただろう。
地下に広がる、空。
幻術か、それとも大規模な魔法装置のなせる業か。それとも全く未知の技術なのか。
何れにせよ、尋常でない力が動いていることだけは確かだ。
これは、前回とは比較にならない探索になる。
二人では、足りない。三人でも、足りない。
九人だ。この探索には、あの九人の力が必要だ。
鷲の翼 鮫の牙 豹の脚。
———三合の、鎖。
入り口近くの2つの魔法陣を記して地上へと戻る。
その辺りは以前と変わらない。魔法陣の名前も、そのままだった。
ついでに地上の周辺も一通り探索、確認しておくことにした。
‘遺跡外’と呼ばれるエリアも探索には欠かせない、重要なフィールドだ。
そしてその足で、冒険局と近くの酒場の隅に張り紙をしておいた。
あいつらが見れば気付くだろう。
………若干、気付いてくれなさそうな気のする輩も居なくはない、が。
あの時、無事に脱出したのかどうか。
再び、この島に来るのかどうか。 何も、わからない。
確約は無い。だが、確信は、在る。
だから、俺達は丘の上で待とう。
三合の鎖が再び繋がれる、その時を。